
条件付きで招かれた北朝鮮とイラン
英国のエリザベス女王の国葬が9月19日、ロンドンのウェストミンスター寺院(収容人数2000人)で執り行われる。
全世界から国王、大統領、首相ら高位者500人が参列して、今世紀最大規模の弔問外交が繰り広げられる。
招待状は、グレート・ブリテン&北アイルランド連合王国の「外務・英連邦・開発省」(Foreign, Commonwealth, Development Office=FCDO)*1から各国の駐英大使館を通じて各国外務省に送られた。
*1=かつて7つの海を支配した「大英帝国」の歴史を物語る仰々しい名前だが、いってみれば、日本の外務省、米国で言えば国務省だ。左翼は「英植民地主義の名残をいまだに引きずっている」と揶揄している。
その役所が英王室と協議して決めた「招待受諾者リスト」に大袈裟な言い方をすれば、世界が一喜一憂している。
特に被植民地だった米国では、物議をかもしている。
米国人の「英国崇拝」は、一朝一夕にはなくなりそうにない。かつての英国植民地であり、英国軍と戦って独立を勝ち取ったのになぜなのか。
英歴史学者のジェームズ・ボーン博士によれば、米国民は19世紀から20世紀初頭までアンチ英国だったという。
ところが産業革命以降、今でいう先端技術を始め、米国の近代化を推進させてくれた英国に対する劣等感も手伝ってか、米国民のネガティブな対英感は急速に薄れたという。
何といっても英語という言語はもとより、清教徒に始まり、英国文化、宗教、風習は米国主流に深く根ざしてきた。
それはその後移住してきた非英国系の欧州移民にもコモンセンスとして受け入れられた。
そうした下地を深化させたのは第1次大戦、第2次大戦でともに戦った「戦友関係」だった。
特に米国民の英国王室に対する関心の強さは異常だ。同じ欧州の王室でも米国民はオランダやスペインにはほとんど関心を示さない。
言語が英国と共通ということから英国王室はほとんどの米国民にとっては親しみやすい。英国メディアは米国に進出、英王室ニュースは英米で完全に共有されている。
さらにエリザベス女王をはじめとする英王室のメンバーはカラフルだ。米国民にとっては、ちょうど日本人にとっての「時代劇」のようなものなのだ。
ダイアナ妃をめぐる数々の悲劇は言うに及ばず、最近ではヘンリー王子と米女優だったメーガン妃の“米国亡命”は、米タブロイド紙にとって格好のネタを提供してきた。
米英合作のテレビドラマシリーズ「The Crown」(ザ・クラウン)*2は爆発的な人気を呼び、ゴールデングローブ賞に輝いた。
*2=『ザ・クラウン』は、ピーター・モーガンの原作・脚本による米英合作のテレビドラマシリーズ。エリザベス女王の治世を描く ネットフリックス作品。レフト・バンク・ピクチャーズ(Left Bank Pictures)およびソニー・ピクチャーズ テレビジョンが制作。
米国民の対英観の中心に鎮座ましましていたのはエリザベス女王だった。
それだから女王が逝去したニュースはまるで、自国の国家元首が死んだかような報道ぶりだった。
だからこそ、国葬ともなれば米国は大統領はじめ大統領経験者、上下両院議長らで構成された弔問団が参列するのではないかと見られていた。
ところが、英国から「現職大統領とファーストレディのみでおいでください」と言われてしまえば、それまでだった。
理由は「会場収容人員」という物理的なものと言ってしまえば、日本はじめ多くの国は、相手の都合を聞き入れてすんなりと従う。
だが米国はそうではない。
超大国の驕りか(?)、米国は相手の都合を素直に受け入れるお国柄ではない。
「俺はエリザベス女王とは一番近かった」と国葬参列をほのめかしていたドナルド・トランプ氏のような御仁もいる。
「英国」と近いということは、米国内では「葵の御紋」的な効力を発揮する。
そのトランプ氏が英王室から間接的に「招かれざる客」の烙印を押されてしまった。この話は後で細かく記す。
反民主国家と見なされ拒否された6か国
英国の「招待受諾国リスト」決定に戻る。
英国が「招かれざる客」と宣言したのは、以下の6か国。
ロシア
ベラルーシ
アフガニスタン*3
ミャンマー*3
シリア*3
ベネズエラ
*3=英国はアフガニスタン、ミャンマー、シリアとは外交関係を結んでいない。ミヤンマーとは2021年2月の軍事クーデター以後、大使館員規模を縮小。ベラルーシは親ロシア路線を堅持している。
「出席していただいてもよいが、元首ではなく大使級のみ」と、注文を付けて弔問を受け入れたのは、以下の3か国。
受け入れた各国に対しても「一国お一人、現国家元首、大統領、閣僚とその配偶者のみ」と通告してきた。
(弔問する外国人高位者は約500人になると予想されている。なお昭和天皇の国葬の時に参列した外国人高位者は70か国130人だった)
ということは、「自分とエリザベス女王とは特別な関係にある」と豪語してきたトランプ氏にも「ご遠慮願いたい」と言ってきたことになる。
(もっともトランプ氏は9月8日の家宅捜索の際に米連邦捜査局=FBIに3通の旅券を押収されており、よほどの特例でもない限り、出国できない)
「招かれざる客」の筆頭、ロシアは2月、ウクライナに軍事侵攻、ジョー・バイデン米大統領からは「ジェノサイド」(民族大虐殺)と断定されている。
英国は2021年2月、米豪と対中軍事同盟ともいえる「AUKUS」(豪英米の頭文字を組み合わせたオーカス)を創設している。
その米国とは最も近い同盟国である英国が、ロシアを女王の国葬に呼べるわけがない。
その一方で、アジアで軍事活動を活発化させている中国には何ら注文を付けずに「お一人様どうぞ」と、招いた。
アヘン戦争、香港租借、そして台湾問題と、英国は中国と共に近代史を刻んできた「古い友」だ。
これに対して、中国は、王岐山国家副主席(中国共産党政治局常務委員の経験者。常務委員7人に次ぐ事実上の「序列8位」)が習近平国家主席の「特別代表」として参列する。
国家元首(天皇は「国民の象徴」だが、外交的には元首扱いだ)を送り込む日米とは一線を画している。むろん、英国は中国の「格落ち弔問」は最初から織り込み済みだったはずだ。
女王とロシアはナチスと戦った戦友
だが、今や「大英帝国」でもない英国の今の「世界観」で国のランク付けが行われているわけだが、収まらないのは外された国だ。
ロシア外務省のマリア・ザハロワ報道官は9月15日、怒りのステートメントを読み上げた。プーチン氏の憤りを代弁している。
「英外務省は、ロンドンのロシア大使館にエリザベス女王の国葬に同大使館員を含むロシア政府高官を招かぬと通告してきた」
「これは、世界中の何百万人もの人々の心を動かした(英女王の逝去という)国家の悲劇を弔う行事をわが国に対する恨みを晴らすための地政学的な目的に利用しようとする英国の試みである。これは極めて不道徳なことである」
「英国は、ロシアが今ウクライナで展開している特別軍事作戦に関する回答だとしているが、これほど皮肉な言いがかりは納得しがたい」
「なぜなら、当時親王妃だったエリザベス女王は第2次大戦時、英陸軍女性部隊『補助地方義勇軍』(ATS)に入隊し、ナチスおよびウクライナ人協力者であるステパーン・バンデーラ(ウクライナ民族解放運動指導者)やロマン・シューへヴィチ(ウクライナ反政府軍指導者)に立ち向かった」
「今の英国のエリートたちはナチス的な連中の側に立っている。だが、われわれは第2次大戦での勝利に貢献したすべての戦士たちの記憶を追悼し続けている」
(https://tass.com/politics/1508203)
同報道官は、「エリザベス女王の逝去に対する思いに変わりはない」とも付け加え、女王と英国政府とを分けるという含みのあるスタンスを示した。
(英女王、国王は定期的に首相から内政外交についてブリーフィングを受けており、英政府の政策に合意している)
(ウクライナ侵攻に関する英国のスタンスは即、女王の承認した決定事項でもある。そんなことも知らぬプーチン氏でもあるまい)
トランプ氏、英大衆紙に寄稿
英国の決定に怒り狂ってもう一人の御仁がいる。
「米歴代大統領の中で一番女王と親しかったのは私だ」と豪語していたトランプ氏だ。
同氏は9月9日、悲報に接するや否や、英大衆紙「デイリー・メール」にステートメントを寄稿した。まるで現職大統領がしたためた追悼の辞だった。
「女王の歴史的で特筆すべき治世は、平和と安定という大きな遺産を英国にもたらした。女王の存在は何事にも代えがたいものだった」
「歴史上、女王ほど尊厳、不動、困難を乗り切る決意、責任感、そして献身的な愛国心を実践した人物は数少ない」
「冷戦、ロンドン空襲、欧州連合(EU)離脱、コロナウイルス禍などの多くの国難に直面した時も女王は常に英国民に寄り添ってきた」
「米国民にこれほど尊敬され、愛された人物は現代においては数少ない。チャールズ新国王は、大切な母を受け継ぐ偉大で、傑出した後継者になるだろう」
「私の人生にとって女王と過ごした時は類まれな名誉ある時間だった。私とメラニアは、バッキンガム宮殿とウィンザー城で女王と過ごした時間を死ぬまで忘れはしない」
トランプ氏が大統領在任中に女王に会ったのは2018年7月、2019年6月、同年12月の3回だ。
(一番多く訪問したのはフランスで4回、次に多いのは3回訪問した英国と日本だ)
2019年6月3日から5日の時は国賓として訪英、バッキンガム宮殿とウィンザー城で2回会った。その時の感想をのちにこう語っている。
「女王は私と本当に楽しい時を過ごしたはずだ。女王がこんなに楽しんで話をしたことはなかったと彼ら(同席した人間のことか)は言っていた」
「女王との話は弾んだ。お互いに信頼に満ちあふれ、包み隠さぬ話をした。晩餐会で女王と私と同じテーブルに座っていたのが誰だったか全く記憶にない」
「私は女王以外とは誰とも話をしなかった。女王と私は偉大な関係を築いた」
(https://www.vanityfair.com/news/2022/09/queen-elizabeth-donald-trump-funeral)
少なくともトランプ氏は女王にすっかり参っていた。クィーンズ・イングリッシュとニューヨークのクィーンズ・イングリッシュ(トランプ氏はクィーンズ郡出身)とで通訳なしの会話が弾んだことだけは分かる。
女王がトランプ氏のことをどう思っていたのか。
「死人に口なし」で分からない。今後側近が書く回顧録が出るまで待つほかない。ただ、英国人一般がトランプ氏をどう見ていたかは今でも分かる。
英国民に寄り添い、英国民の国民感情には敏感だった女王もおそらく同じだったと仮定してみると、女王のトランプ観が透けて見えてくる。
歯に衣着せぬことで定評のある英国人作家、ナット・ホワイト氏は、ナレッジコミュニティQuora*4にこう投稿している。
「トランプという人間には、英国人が人物評価をする際に重んじてきた伝統的価値のほとんどが欠如している」
「つまり、彼は上品さ、冷静さ、信頼性、同情心、見識、自己認識、節操、雅量、魅力、ウィット、ユーモア、機智に富んだ皮肉、人を楽しませるほのかな笑い、デリカシー、すべての面で欠けているのだ」
「これらを兼ね備えていたのは、バラク・オバマ第44代大統領だった」
*4=Quoraは、ユーザーコミュニティで作成、編集、運営されているサイト。2010年6月21日に立ち上げ、 質問と回答の収集を行なっており、SNSで世界中に転電され、英語圏での「現代用語の一般常識」との評価を受けている。ユーザーは質問の編集を提案することで協働作業が可能になっている。
ホワイト氏の見解を鵜呑みにすれば、エリザベス女王がトランプ氏をどう見ていたか、ひと言でいえば、軽蔑以外の何物でもなかったのではないだろうか。
トランプ氏は2019年6月に訪英した際に英議会での演説を望んだ。
だが、英下院のジョン・べロウ議長が強硬に反対したため、実現しなかった。
直接の理由はトランプ氏がイスラム諸国からの渡航者の入国を禁じた大統領令を出したためとされているが、実は英議会に「嫌トランプ気運」が根強かったためとされている。
(訪英した歴代大統領はロナルド・レーガン、ビル・クリントン、オバマ各大統領全員が議会演説を行っている)
エリザベス女王死去以後の米国内での動きをフォローしてきたオンライン・メディアの編集者はこうコメントしている。
「トランプ氏は女王との緊密な関係にあるとの独りよがりもあって、英大衆紙に投稿し、国葬参列を売り込んだが、英国王室は『外国弔問客人数制限』を名目にシャットアウトに出た」
「女王国葬に参列することで司法当局による訴追の動きで窮地に立っている現状打破を狙ったのだろうが、英国に肘鉄を食らったわけだ」
「バイデン氏はバイデン氏で『英国が招くのは現職だけと言ってきた』と一部で囁かれていた元前大統領に同行する米弔問代表団構想*5を粉砕してしまった」
「決定以降、トランプ氏は沈黙を守っているが内心煮えくり返る思いだろう」
*5=同構想を打ち上げたのは、CNNテレビの名物アンカーマンのジェイク・タッパー氏(民主党議員の補佐官を経てテレビ界入り、2012年以降CNNの平日ニュース番組「The Lead with Jake Tupper」のアンカーを担当)だ。反トランプの急先鋒の一人だ。
9月9日の番組(つまり英国の最終決定前の段階)で「トランプ氏を同行させるのが、バイデン氏にとって賢い行動だと思う」と述べ、超党派の弔問団派遣に期待を示した。
同氏の意図がどこにあるのかはっきりしないが、CNNは「同構想はタッパー氏個人の見解であり、CNNの方針ではない」とコメントを出している。
米国内でのこのドタバタ騒ぎに天国に召されたエリザベス女王は苦笑しているのではないだろうか。
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<このニュースへのネットの反応>
習近平訪英時の「非常に無礼」は歴史に残る名言だった。
なんか問題ある?
記事内容読んだけど、妄想でトランプや米国民が激怒してるって思い込んでるだけの記事だった。
>女王とロシアはナチスと戦った戦、ナチスドイツと戦ったのは旧ロシアを革命で滅ぼしたソビエト連邦だバカたれ。ロシアではない。
誰が書いたん? この記事。署名ぐらいしなよ。
今中共武漢肺炎禍中だっての忘れてない?慰問団とかつれてって全員感染とかしたらどうすんのよ
書いたのはいつもの高濱 賛アメリカから妄想垂れ流してる人です。
ところでアルゼンチンはどうした?